日本語の「はしっこ」―ほんとうに崖っぷち
東京にオリンピックが来ることになって、ねじれた理由で決意した英語再学習。日本語で受けとる情報のなかで日本語で考えているのが息苦しくなってきて、39歳の崖っぷちでせめて「日本語でない世界」にわたりたいと「縄ばしご」として掴んだ英語だったのですが、か…風が想定以上に強く、ぶらんぶらん 縄にしがみついているだけで……1年がたってしまいました……。英語…すすんでません……
思わぬ強風でした。風やんだら書きますといいながら、いつのまにか暴風域に……気づいたら会社を辞めていて、いま崖でぐるりを囲まれた国境沿いの島で、これを書いています。
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西の国境沿いの島・与那国島は、天候の条件がととのえば、北西の対岸に台湾が見えるといいます。与那国から台湾が近いことはもちろん、フィリピンやベトナムまでと熊本までの距離がほぼ同じくらいなんですね。思うよーり、「日本」は細長いです。
5年前、東京のまんなかで暮らしていた友人が、馬と暮らす生活をしたいということで、この島にひっこしてゆきました。
与那国島には、与那国馬という在来馬が100頭ばかり住んでいて、島のはしっこの牧場では、野生の馬がこんなふうに暮らしています。
その彼女が、東京に遊びに来たとき、「東京にばっかり出版社があるっていうのがつまんないね」「じゃあ国境沿いの島で出版社つくったらおもしろいかもよ?」という冗談から駒が出て、2012年の3月にほんとに一冊の本を出すことになりました。出版社の名前はカディブックス(kadibooks)。続く2冊目を、いまつくっているところです。
部屋から歩いて5分のところに「日本最後の夕日が見える丘」という石碑のある崖っぷちがあります。夕暮れ時に石の上に座って、海の向こうを眺めていると、地球上ではいつもどこかで日が昇り、沈んでいるわけで、「〝最後の夕日〟って何よ」という気もしてきます。
向こう側は「台湾」。このさきは、ふつうには日本語は通じないけれど、そっか、日本語の本を出す、いちばん西の出版社なんだな、と思いました。
といいながらこの島には、「与那国語(ドゥナンムヌイ)」という言葉があるそうです。国内では日本語の「沖縄方言」のひとつとみなされることも多いようですが、ユネスコなどは日本語とも異なる一言語にカウントしているとのこと。「言語」と「方言」の境目もくっきり引けそうにありませんが、「日本語」と「琉球語(琉球諸語)」については、文法の対応関係は強いいっぽう、語彙の共有率は「ドイツ語」と「英語」より低いそう。
ユネスコのサイトにいって、調べてみると…
日本の少数言語は8つ―
Ainu (Hokkaido)
Amami
Hachijo
Kunigami
Miyako
Okinawan
Yaeyama
Yonaguni
アイヌ語のほかは、すべて琉球諸島のことば。それぞれ母音の数がまちまちです。母音が3つ(i/u/a)の与那国語を現在話せる人は、厳密なカウントは難しいはずだけど、およそ400人弱(2010年)、危機言語の「Severely endangered」になっています。与那国にはさらに「カイダ文字」という象形文字があって、明治になるまで使われていたそうです。
一方、琉球諸島の言葉そのものが「古日本語」から伝わったともいわれていて、7世紀前の「日本語」にあった「p」音(ピトゥ:人、ピカィ:光〔宮古〕)を残していたりするんだそうで……さらには一つの島のなかでも通じないくらい村と村の間で言葉がちがっていたりもしたんだそうで……。
「スンカニ」(与那国の唄)の若い歌い手で、歌の記録に努めるYさんの話からは、寄せては返す波のように与那国から琉球へ、日本から琉球へ、言葉が双方に伝播していった軌跡を感じました。
いくつもの「日本語」がある、と言ってもいいのかなぁ。。
会社を辞めて、日本語の「はしっこ」に来て、41歳になって、惑わずどころかハシゴが外れ、「日本語」の境界そのものがよくわからなくなってきました。「向こう側」にわたるんでしょうか。英語、つづけられるんでしょうか……
生き残るために「標準日本語」を学ばざるをえなかった琉球あるいは与那国の歴史のように、生き残るために英語を学ぶ人が増え、日本語が「ローカルな言語」になっていく未来のことも思いつつ。
■「ヤギの肉はおいしいなぁ」を宮古、八重山、与那国の言葉で言うと…
https://www.youtube.com/watch?v=wkXqgIVGjUE
■どぅなんスンカニ
https://www.youtube.com/watch?v=3yu4NTxqphE
https://www.youtube.com/watch?v=f4WewaCqsVU
与那国語でこの島は「ドゥナン」。”渡るのが難しい”「渡難」という意味が有力。
■In Japan’s Okinawa, saving indigenous languages is about more than words(The Washington Post 2014/11/29配信)
賀内麻由子:
十人十色、一色目。
英語をやりなおすタビの記録をよたよたとつづります。
山口生まれ、千葉育ち、東京ぐらし。
うろうろと息のしやすい言葉の回路をさがしています。
与那国島にあった出版社(久米島に移転)kadiibooksなど、小さいメディアのお手伝いなど。
http://www.kadibooks.com/